中小企業における働き方改革の取り組み事例と働き方改革の背景
「働き方改革って具体的にどんなことをするの?」
「中小企業にはどんな影響があるの?」
こんな疑問を抱えている方はいるでしょうか。
2018年に働き方改革関連法が成立し、2019年4月1日より本格的に働き方改革がスタートしました。初めは大企業を中心に施行されていましたが、現在は多くの施策において、中小企業も対象となっています。
一方で何が変わるのかわからない、どのように対応したらいいかわからない、という企業も珍しくありません。かといって対応を怠っていると、罰則が課せられることもあるので注意が必要です。
そこで今回は働き方改革のポイントと、中小企業の課題点や対応策について解説します。
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働き方改革関連法によって労働環境が変化
働き方改革関連法の正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」で、2018年に成立し、2019年4月1日より施行されました。
これに伴って労働基準法、労働安全衛生法など8つの法律が改正されています。
働き方改革関連法による改正で、特にポイントとなるのは以下6点です。
1. 時間外労働の上限規制
原則として上限は月45時間・年360時間を時間外労働の上限としています。しかし特別な事情がある場合は、年720時間以内の時間外労働が可能です。この上限規制に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。
長い間、日本の長時間労働という労働問題は国内外から問題視されてきました。今回の働き方改革関連法の改正によって、その長時間労働の解消へと一歩近づいたのかもしれません。
2. 時間外労働の割増賃金
2023年4月1日より、中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%になります。以前までは、大企業は50%でしたが中小企業はその半分の25%でした。また、月60時間を超える時間外労働が深夜割増賃金が当てはまる時間帯に行われる場合、25%+50%=75%が割増賃金りつになります。
一方で、法定休日に行われた労働時間は含まれませんず、法定休日労働の割増賃金は35%のままになります。割増賃金率の規定に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。
参考:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
3. 年次有給休暇の取得を義務化
年に10日以上有給が付与される労働者に、最低5日間の有給取得が義務付けられました。
エクスペディアのレポートによると、2020年まで日本の従業員は同僚への配慮や人員不足により休暇がとりにくいという理由から年次有給休暇の取得率が約50%にとどまっていました。しかし、2021年には有給休暇の取得率か60%と6年ぶりに回復することに成功しています!
この年次有給休暇の取得義務に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。
4. 雇用形態の違いによる不合理な待遇差の禁止
実際には、「パートタイム・有期雇用労働法」と「労働者派遣法」という法律が施行されました。
同一労働・同一賃金の考え方に基づき、職務内容が同じ場合は、雇用形態にかかわらず同じ賃金を支払うというものです。この指針を実施するにあたってのポイントは、「均衡待遇」と「均等待遇」があります。
*待遇とは、賃金、福利厚生、教育研修、休憩、休日、休暇など全ての待遇を含みます。
つまり、就業の内容が同じ場合は待遇を同じにすべき(均等待遇)で、就業の内容が異なる場合はその違いに応じた合理的な対応を行うべき(均衡待遇)という指針です。
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5. フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制とは、労働者が自ら始業と終業時間を決めることができるようにすることで、労働者の生活に合った働き方を可能にするという制度です。働く時間帯が柔軟になるというだけで、労働時間は所定労働時間を守る必要があります。
働き方改革関連法の改正により、フレックスタイム制の精算期間が3ヶ月へと拡充されました。そのため、3ヶ月間の労働時間をその期間自由に働くことができるということになります。
例)1ヶ月目30時間、2ヶ月目40時間、3ヶ月目50時間労働も所定労働時間内という計算
フレックスタイム制の義務に違反した場合、この上限規制に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。
6. 高度プロフェッショナル制度
この制度では、高度な専門的知識を使って働く人を対象に、労働基準法の労働時間や休日、休憩に関する規定を適用しないというものです。運用方法としては、高度プロフェッショナル人材は、従来の働き方(9ー6時)にとらわれることなく好きな時間に柔軟に働くことを可能にするケースが挙げられます。
この制度の適用には、労働者本人の同意と年104日間以上の休日確保措置などを事前に準備する必要があります。
働き方改革推進にはどんな理由が?
働き方改革の推進される背景には、日本の抱える4つの理由と課題を紹介します。
1. 少子高齢化
日本では、少子高齢化が進んでおり、2022年の出生数は80万人をとうとう切ってしまいました。急激に進む少子高齢化の結果、企業は人材を確保することが以前に比べて大変になっています。
ある企業では、人材が確保できないために従業員に残業を課したりするケースがありますが、働き方改革が進むことで従来の従業員像ではなかった人口(例:主婦や高齢者など)が働き手として加わることができます。
そのためには、働き方改革を進めてテレワークやパートタイム、フレックスタイム制の導入などをしていく必要があります。
2. 長時間労働が原因の過労死や過労によるうつ病などの増加
厚生労働省によると、長時間労働による日本の精神障害に関わる労災請求件数はやや増加傾向にあります。
主な理由としては、人手不足により労働時間が増えた、経済的な不安などの社会的なストレスまたは労働者が自身の精神状態についてより意識するようになったことなどが挙げられます。長時間労働の是正は、働き方改革関連法の大きな目的の1つと言えるでしょう。
3. グローバル化による人材流出
グローバル化が進むにつれて、優秀な人材がより良い労働条件を求めて海外へ流出してしまうという懸念があります。また、日本国内でも転職が以前に比べてしやすくなったことから、労働者は柔軟な働き方ができる企業への転職が比較的可能になりました。
中でも、人材確保に苦戦している中小企業が働き方改革に取り組むことで、従業員の定着率を高めると同時に、優秀な人材を集めることができるようになります。
4. ワークライフバランスへの取り組みで企業価値向上
働き方改革を推進することで、従業員のモチベーションや生産性を高めることができます。
つまり、企業全体の労働生産性が高まるためパフォーマンスが上がり結果として企業の利益増加につながるとされています。また、従業員のモチベーションが高まることで顧客やクライアントへの対応の質も向上し、顧客満足度の向上にもつなげることが可能です。また、CSR、企業の社会的責任としてワークライフバランスの推進に取り組むことで世間からのその企業に対する評価を上げることができます。評価を上げるメリットとして、顧客からの支持を集めたり、優秀な人材を確保できたりが挙げられます。
5. 中小企業の労働生産性の低さ
中小企業庁によると、宿泊業、飲食サービス業、サービス業は大差はないもの、全ての業種において中小企業は大企業に比べて時間当たりの労働生産性が低いという結果になっています。
さらに、OECD加盟国における2010年から2016年の労働生産性で、日本は35加盟国中21位でOECD加盟国平均を下回っています。さらに上昇率を見ても35か国中22位と平均を下回っています。
この白書にあるように、労働人口の減少という慢性的な問題を抱えている日本社会において、少ない従業員で効率的に働くこと、付加価値がくを増加させ、労働生産性を向上させていくことが重要になっています。
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中小企業の働き方改革は2019年から順次スタートしている
働き方改革は大企業を中心にスタートしており、中小企業は猶予期間を持ってスタートする形となりました。中小企業基本法によると、「中小企業」とは下図の基準を満たす企業を指します。
業種 |
中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) |
中小企業者(下記のいずれかを満たすこと) |
小規模企業者 |
|
出資金の額又は出資の総額 |
常時使用する従業員の数 |
常時使用する従業員の数 |
①製造業、建設業、運輸業 その他の業種(②〜④を除く) |
3億円以下 |
300人以下 |
20人以下 |
②卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
5人以下 |
③サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
5人以下 |
④小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
5人以下 |
この基準をもとに大企業と中小企業に分けられており、働き方改革の施行時期にも違いが生まれています。
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改正された働き方改革関連法の中小企業への適用はいつから?
法律名 |
項目 |
施行日(大企業) |
施行日(中小企業) |
労働施策総合推進法(旧雇用対策法) |
法律名改称、目的規定、基本理念、国の施策、基本方針の策定 |
2018.7(公布日) |
2018.7(公布日) |
労働基準法 |
時間外労働の上限規制 |
2019.4 |
2020.4 |
労働基準法 |
年次有給休暇の年5日取得義務 |
2019.4 |
2019.4 |
労働基準法 |
高度プロフェッショナル制度の創設 |
2019.4 |
2019.4 |
労働基準法 |
フレックスタイム制の見直し |
2019.4 |
2019.4 |
労働基準法 |
中小企業の割増賃金の猶予措置廃止 |
- |
2023.4 |
労働基準法 |
限度基準適用除外見直し |
2024.4 |
2024.4 |
労働安全衛生法 |
長時間労働者の医師面接制度の拡充 |
2019.4 |
2019.4 |
労働安全衛生法 |
労働時間の状況の把握 |
2019.4 |
2019.4 |
じん肺法 |
労働者の健康情報の取り扱いの適正化 |
2019.4 |
2019.4 |
労働時間等設定改善法 |
勤務間インターバル制度(努力義務) |
2019.4 |
2019.4 |
労働契約法 パート・有期労働法 労働者派遣法 |
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金) |
2020.4 |
2021.4 |
引用:コニカミノルタ
大企業と比べて資源の少ない中小企業には、改正法の適用までに猶予期間が設けられてます。上図のとおり、中小企業では2019年から2024年にかけて11項目が適用されます。
この改正によって、以下のような変化が起こりました。
2019年4月~:有給取得が義務化し、違反時は企業に罰則が科せられるようになる
2020年4月~:時間外労働の上限が定まり、違反時は企業に罰則が科せられるようになる
2021年4月~:同一労働・同一賃金の原則のもと、不合理な待遇差が禁じられる
2023年4月~:月60時間を超える残業に対する割増賃金が25%から50%になる
2023年4月時点でほとんどの改革が終わっており、残すは2024年に行われる「限度基準適用除外の見直し」のみとなっています。
統計結果から見た働き方改革の現状
法律上は2019年からスタートした働き方改革ですが、実際の現場ではどれだけ進んでいるのでしょうか。統計結果から検証していきます。
小規模企業ほど働き方改革に対する理解度が低い
出資額や業種によって異なるものの、大まかには従業員数が301人以上だと大企業、0-5人なら小規模事業者、その間が中小企業と考えられます。この図を見ると企業規模を問わず、ある程度は働き方改革の内容が伝わっているといえるでしょう。
ただし企業規模によって、働き方改革への理解度には差があるのも事実です。従業員数が減るにつれ、理解度も低くなる傾向にあります。
働き方改革への対応も企業規模によって大きく異なる
大企業では9割以上が働き方改革に対応済み、あるいは対応方針を検討中と回答しています。一方で従業員数が少なくなるにつれて増えているのが、「対応が必要であるが、対応する予定はない」という回答です。
対応できない理由としては、以下の項目が上位に挙げられていました。
仕事の繁閑の差が激しい(50.1%)
人手不足である上に採用も困難(48.0%)
利益が確保できない(45.8%)
そのほか社内風土や事業内容によって、対応できない原因が残っています。
働き方改革に対応する中小企業が抱える課題
中小企業が抱える課題の一つに、慢性的な人手不足があります。
2022年度版の中小企業白書・小規模企業白書でも、「依然として人手不足」との結果が出ていました。
そのため残業時間を減らすなど、単に労働力が減るような対策はとることができません。また残業時間の上限が設定されることで生産が追い付かず、受注量が減少することも考えられます。そうなると企業の利益、引いては企業の存続にも影響するでしょう。
24時間対応が求められるサービス業や、繁忙期にどうしても残業が増えてしまう製造業など、業種による課題もあります。
中小企業が働き方改革を実践する際の具体事例5つ
中小企業は上記のような課題を抱えながらも、働き方改革を実践しなければなりません。ここでは、中小企業が取り組むことができる事例を5つご紹介します。
1. 柔軟な働き方、多様な働き方の推進
柔軟な働き方や多様な働き方を推進することで、まず多様な人材を採用することができます。
育児中や介護中の方、高齢者や外国人労働者など、さまざまな層の就業機会を拡大することで、人手不足の解消につなげられるかもしれません。
時短勤務
テレワーク
フレックスタイム制度
たとえばこのような制度を活用すれば、これまで雇用できなかった人材を確保できる可能性があります。さらに、柔軟な働き方にはワーケーションやテレワークなども含まれますが、これらの働き方には従業員の生産性を上げるという効果も期待できます。
しかし、導入の前に制度(目的設定や環境の整備)が整っていないと逆効果になる恐れもありますので気をつけましょう!
2. 勤怠管理を適切に行う
残業時間の上限を超えないためには、適切な勤怠管理が必要です。一人ひとりの労働時間を正確に把握するため、手書きではなくタイムカードなどで客観的な記録を残さなければなりません。
有給の付与状況、消化状況についても確認する必要があります。適切な勤怠管理を効率的に行うには、ITツールの活用も有効です。
引用:*勤怠
テレワークやフレックスタイムに対応しているツールも多く、手入力するよりも作業ミスは減らせるでしょう。中小企業にも人気の高いツールには、jinjer勤怠やジョブカンなどがあります。
3. 業務を効率化する
労働時間を削減するためにも、業務の効率化は必須です。業務効率化の手段としては、以下の方法が考えられます。
ITツールの導入
業務のマニュアル化
単純作業の外注
人材配置の適切化
特にITツールの導入は多くの企業で進んでおり、「DX化」という言葉もよく聞かれるようになりました。
コミュニケーションツール(例:Slack、Chatwork)
顧客管理ツール(例:Hubspot、Salesforce Cloud)
タスク・プロジェクト管理ツール(例:Trello、backlog)
このように用途に合わせてさまざまなITツールがあります。コストはかかりますが、使い方次第では大幅に業務の効率化が進むでしょう。
参考記事:BPOサービスを提供する会社10社|BPOとは?導入メリット・デメリット
4. ワークライフバランス宣言を制定する
中小企業は、自主的に「ワークライフバランス宣言」のようなものを制定することができます。
それぞれの取り組みを個別に行うことも良いですが、このような宣言を行うことで従業員により働き方改革によって加えられた変更点への取り組みを促すことができます。
また、宣言によって明確な事項(年次有給休暇の取得、時間外労働の上限、育児休暇など)を明記することで社内全体に働き方改革を導入することができます。今までの働き方を変えるということは簡単なことではありません。
長年の習慣を変化させるには管理職も含めた社内全体で一貫性を持って継続的に働き方改革に取り組んでいく必要があります。
5. プレミアムフライデー制度の導入
プレミアムフライデーとは、毎月最後の金曜日に早退することができ従業員のストレスを軽減、ワークライフバランスを向上させようという取り組みです。いつもより早く仕事を終えて、
・スポーツをしたり
・友達と会ったり
・休日と合わせて旅行に行ったり
などが具体例として挙げられます。詳しくは、プレミアムフライデー推進協議会のホームページをご覧ください。
中小企業は働き方改革についてどこに相談すべき?
特に中小企業が働き方改革を進めるにあたり直面する課題を解決するために、働き方改革推進支援センターという窓口が厚生労働省により設けられています。
働き方改革推進支援センターの支援対象となるのは、全ての事業主の方です。
具体的な相談内容としては、
36協定について知りたい
賃金引き上げに活用できる国の支援制度について
人手不足の解決方法について
利用できる助成金について
非正規雇用労働者の待遇改善について
など、働き方改革に関する様々なお悩みについて社会保険労務士などの専門家より支援・アドバイスしてもらえたり、個別相談以外にもセミナーなども随時開催しているようです。
詳しくは、お近くの商工会議所や中小企業団体などにお問合せください。
また、研修会社(例:顧客との共創・協働を大切にして研修を提供するアーティエンス)の利用という選択肢もあります。
参考:働き方改革推進支援センターのご案内
ITツールを活用して働き方改革に対応しよう
ここまで働き方改革について、改定のポイントや中小企業の課題点、対応策について解説しました。
制度の変更に戸惑う部分もあるかもしれませんが、将来的には生産性の向上や就業機会の拡大につながるはずです。世界的に見ても、日本の労働時間は長いといわれています。
ぜひITツールをうまく活用しながら労働時間の削減につなげ、働き方改革を実践していってください。ITツールの一つとして、クラウド郵便サービスのメールメイトもおすすめです。
会社に届く紙の郵便物をWEB上で確認・管理ができるようになります。郵便物のペーパーレス化・デジタル化を推進にご興味のある企業の方はお気軽に一度ご相談ください。
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